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三島由紀夫「絹と明察」
三島由紀夫「絹と明察」
実在の労働争議(1954年の近江絹糸の労働争議)に材料をとった小説である。
英訳も出ており、題名は「Silk and Insight」となっている。
主な登場人物は、近江の駒沢紡績の社長・駒沢善次郎。
政界財界のいわばフィクサーである岡野。
岡野の知人で40歳の芸者・菊乃。
のちに駒沢の愛人となり、駒沢紡績の女子寮の寮母となる(つまり、スパイ)。
工場で働く若いカップルの大槻と弘子。
読んだ当初は気がつかなかったが、岡野と菊乃の関係は松本清張の「黒革の手帖」や「わるいやつら」で
実在の労働争議(1954年の近江絹糸の労働争議)に材料をとった小説である。
英訳も出ており、題名は「Silk and Insight」となっている。
主な登場人物は、近江の駒沢紡績の社長・駒沢善次郎。
政界財界のいわばフィクサーである岡野。
岡野の知人で40歳の芸者・菊乃。
のちに駒沢の愛人となり、駒沢紡績の女子寮の寮母となる(つまり、スパイ)。
工場で働く若いカップルの大槻と弘子。
読んだ当初は気がつかなかったが、岡野と菊乃の関係は松本清張の「黒革の手帖」や「わるいやつら」で
佐藤浩市(あるいは仲村トオル)と米倉涼子が演じた役柄を思わせる。
以下、本文より、抜粋。
「 彼は若さに加えて、人の悪さをわがものにしたことを、ひとつの成長だと考えざるを得なかった。
純粋さの固執は、生きるために苦労したことのない青年たちに任せておけばよいのだ。
組合運動を、会社の不純な意図を覆す純粋さの一揆だとは、彼はさらさら考えなくなっていた。」
「今彼らは、克ち得た幸福に雀躍しているけれど、やがてそれが贋ものの宝石であることに気づく時が来るのだ。
せっかく自分の力で考えるなどという恐ろしい負荷を駒沢が代わりに負ってやっていたのに、今度は彼らが肩に荷わねばならないのだ。
大きな美しい家族から離れ離れになり、孤独と猜疑の苦しみの裡に生きてゆかなければならない。」
「岡野は、彼の存在に少しも斟酌なく、目の前で現実に起こった純情の勝利、忠実の勝利に、少し呆れた。」
三島は、小説の中で女性をいたぶることが多々ある。
その描写が時々、複数の小説の中で似ている。
「絹と明察」では菊乃が駒沢社長を看病する場面で、社長が彼女を冷たい眼で見ている、だとか。
「愛の渇き」で悦子が夫の看病をしている病室に、愛人が訪ねてくる場面。
腸チフスだと聞いて、愛人はたじろぐ。
悦子が夫の布団かなにかがずり落ちたのを拾おうとしたら、夫と愛人が目くばせをして、悦子を蔑むような目だった、とかなんとかそういう描写だった。
ほぼ同じ時期に「青の時代」や「宴のあと」を読んだので、それらに比べたらそう面白く感じなかった。
ただ、ストライキや病院の場面は面白い。
社長の母親の描写も印象に残っている。
検索したら、松岡正剛氏が「絹と明察」の書評を書いておられたのにまるで気がついていなかった。
彼のネット上での書評は大好きで、割と多く読んでいたのだけど。
経歴をよく存じ上げないけど、多分大手出版社の編集長だった方ではないかと思う。
松岡氏の若い頃、ご近所で回覧板ならぬ、回覧雑誌なる習慣があったそうな。
横浜山手町、ですと。
「毎月、婦人誌・経済誌とともに『群像』『文學界』『新潮』などの文芸誌が順次届いてゐた。」ですって。
あああー。
違うなー、もう。
適わん。
これだから、東京や横浜や、鎌倉で育った男性は、それが山の手だろうが下町(浅草や谷中などと、田舎育ちの私にとっては下町という名の、大都会)だろうが、小説の一つや二つ、書けて当たり前、なんですよ。
そして、お父様は駒沢が面白い、ご子息は岡野が面白い、などと知的な会話をかわしていたそうな。
以下、本文より、抜粋。
「 彼は若さに加えて、人の悪さをわがものにしたことを、ひとつの成長だと考えざるを得なかった。
純粋さの固執は、生きるために苦労したことのない青年たちに任せておけばよいのだ。
組合運動を、会社の不純な意図を覆す純粋さの一揆だとは、彼はさらさら考えなくなっていた。」
「今彼らは、克ち得た幸福に雀躍しているけれど、やがてそれが贋ものの宝石であることに気づく時が来るのだ。
せっかく自分の力で考えるなどという恐ろしい負荷を駒沢が代わりに負ってやっていたのに、今度は彼らが肩に荷わねばならないのだ。
大きな美しい家族から離れ離れになり、孤独と猜疑の苦しみの裡に生きてゆかなければならない。」
「岡野は、彼の存在に少しも斟酌なく、目の前で現実に起こった純情の勝利、忠実の勝利に、少し呆れた。」
三島は、小説の中で女性をいたぶることが多々ある。
その描写が時々、複数の小説の中で似ている。
「絹と明察」では菊乃が駒沢社長を看病する場面で、社長が彼女を冷たい眼で見ている、だとか。
「愛の渇き」で悦子が夫の看病をしている病室に、愛人が訪ねてくる場面。
腸チフスだと聞いて、愛人はたじろぐ。
悦子が夫の布団かなにかがずり落ちたのを拾おうとしたら、夫と愛人が目くばせをして、悦子を蔑むような目だった、とかなんとかそういう描写だった。
ほぼ同じ時期に「青の時代」や「宴のあと」を読んだので、それらに比べたらそう面白く感じなかった。
ただ、ストライキや病院の場面は面白い。
社長の母親の描写も印象に残っている。
検索したら、松岡正剛氏が「絹と明察」の書評を書いておられたのにまるで気がついていなかった。
彼のネット上での書評は大好きで、割と多く読んでいたのだけど。
経歴をよく存じ上げないけど、多分大手出版社の編集長だった方ではないかと思う。
松岡氏の若い頃、ご近所で回覧板ならぬ、回覧雑誌なる習慣があったそうな。
横浜山手町、ですと。
「毎月、婦人誌・経済誌とともに『群像』『文學界』『新潮』などの文芸誌が順次届いてゐた。」ですって。
あああー。
違うなー、もう。
適わん。
これだから、東京や横浜や、鎌倉で育った男性は、それが山の手だろうが下町(浅草や谷中などと、田舎育ちの私にとっては下町という名の、大都会)だろうが、小説の一つや二つ、書けて当たり前、なんですよ。
そして、お父様は駒沢が面白い、ご子息は岡野が面白い、などと知的な会話をかわしていたそうな。
by stefanlily
| 2015-12-10 16:27
| 文学、books